今年度は、美濃部達吉の憲法学の全体像を描くための前提として、五・一五事件以前の彼の学説を分析することを研究計画に掲げていたが、その成果として「美濃部達吉の憲法学に関する一考察(二)-1932-35年を中心に-」を国家学会雑誌に公表した。これは、すでに前年度に公表されていた同論文の(一)(同誌121巻11・12号(2008年)1-55頁)に続き、主に美濃部の「立憲政治」論を明らかにしたものであるが、特にその基礎に「国体」が存在しているのではないかという指摘を行なったことで、美濃部におけるナショナリズム問題を論じるための布石を打つことができたと考えている。しかしながら、今年度はこれにとどまらず、五・一五事件以降のテクストの読解にも取り組み、その成果として「美濃部達吉と岡田内閣」を法学会雑誌に公表した。ここでは、美濃部が挙国一致内閣に明確にコミットしていたことを明らかにしたことで、この時期の彼の政治評論を分析する上での基本的な視座を得ることができたと考えている。さらに、立法過程研究会において美濃部の議会制論について報告をする機会を与えられたことから、彼の「代表」観念を切り口に、美濃部憲法学の全体像を描く試みを行なった。具体的には、まだ試論の域を出ていないが、美濃部が「真の国民代表」というとき、そこには彼の考える「国益」との一致が想定されているのではないかとの仮説を提示した(なお、この報告については、北大法学論集に内容が公表される予定である)。これらの成果を基に、来年度は、積み残しとなっている政党内閣期における政治評論の分析を行なった上で、五・一五事件以降のテクスト分析という「本丸」に挑みたい。
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