本研究はペルーを中心とするラテンアメリカ地域を対象に、国内における公共社会の形成がグローバル化によって規定されていることを、統治の基盤を成す社会構造とこれを方向づける歴史的文脈から明らかにしようと試みるものである。この点は、内在的側面を指す前者にのみ目が向けられがちな従来の研究に比して、内在的側面と外在的要因を複合的に捉え、かつ前者と後者の論理的連関を解明しようとする点に特徴がある。ラテンアメリカ型の「大統領中心主義」の統治構造は「危機」と「独裁」の概念を本質として理解されるが、いわゆる低開発国の統治形態にある程度共通に見られるこれらの特徴はいわゆる近代西欧型の憲法理論では把捉し尽くされない。以上の視点から本研究が注目するのが、近年のラテンアメリカにおける「新たな社会運動」である。本研究に関わる基礎的な文献の徹底的な収集および実態調査のための期間と位置づけた平成21年度は、これまでの研究成果から本研究に継続すべき課題を精査することを中心に研究を進めた。(1)スペイン、フランス、ドイツにて当該領域の文献収集、研究機関での聞き取り調査を行った後(2009年9月)、(2)ペルーおよびブラジルにて、現地研究者との意見交換および文献収集を行った(2009年12月)。(1)は当該領域の研究の蓄積があり、かつラテンアメリカ地域の社会科学領域に理論的影響が大きいだけに、前提作業として必須の調査であったが、予想以上の成果が得られた。(2)では自助組織を主とする社会運動関係者およびIMFや世銀の現地事務所での関係者からの聞き取り調査も予定していたものの、現地の協力者の尽力にもかかわらず、アポを取りつけることが不可能であった。この点は来年度以降の課題である。 なお2009年度はこれらに関する2つの成果を公表したが、目標としていたペルー国内の法学雑誌への投稿は果たせなかった。この点は2010年度の第一の目標として設定し直した次第である。
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