不年度は、研究初年度ということもあり、わが国の租税救済制度の根幹である国税不服審判制度について、基礎的な比較研究を行うこととした。比較対象としては、特に、アングロサクソン諸国とゲルマン諸国の対比を中心に現状比較を行った。その結果、わが国の不服審判制度が、ドイツ系の制度に範を取り、書面審理を中心として、対審制を原則認めていないため、納税者のプライバシーは保護される半面、審理のプロセスがわかりにくいことが判明した。さらに、わが国では、同様の審判制度(Tax Tribunal)を有するイギリスと異なり、国税不服審判所が独立ではなく、国税庁の外局に存在することから、裁決が、納税者に不利に働くのではという批判があることがわかった。もっとも、イギリスも本年4月に機構改革を行った結果、裁判所に近い形態になったのであって、わが国も今後、改革を進めることにより、近づけることは可能であると考えられる。同時に、オーストラリアを視察し、同国で導入されている少額裁判制度についてもヒアリングを行った。わが国では、裁判所法3条の規定があるが、裁判の迅速化、簡易化は可能ではないかと考えるにいたった。 一方、国際課税上の救済に関しては、最近のわが国で締結される租税条約にほぼもれなく相互協議規定が入ることからその検討も行った。相互狭義は、課税庁間の交渉であるが、国際課税の分野では、裁判による解決より迅速で、そのプロセスさえきちんと運用されれば、納税者保護のための有効な手段となりうると考えられる。 本年度は、これらの研究成果をふまえ英文で論文を執筆した(Lang/Waldhoff/Reimer『History of Tax Treaties』の中にNational Report of Japanとして所収予定である(初稿済み))他、日本語での研究会報告をジュリスト用に執筆中である。
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