本年度は、前年度より継続して国内外の租税に係る争訟(含むその前置主義)における和解・仲裁制度の実態について調査・検討を行った。それによれば、わが国の租税訴訟において和解が問題とされるのは、大きく分けて2つあり、当初は、当事者間(納税者間)で民事上の和解が行われ、金銭の授受があった場合の課税所得の分類が、実務上、問題とされてきたことが分かった。これは、収受した者に対し、課税庁が、当該所得を雑所得として課税できるかという点であった。 これに対し、近年巷で話題となっているいわゆるADR(民事上の仲裁手続)の租税関連事案への実効性も論点となっている。この点は、いまだ理論的な判断が固まっていないにもかかわらず、昨今、一部の行政訴訟(EX.諌早関門および薬害エイズ事件)において、裁判所から和解勧告が出され、裁判が終結するケースが出てきていることから、今後、行政訴訟の一部である租税訴訟においても納税者保護の見地から、紛争解決の1手段として考慮される可能性があることが明らかになった。 問題は、すでに課税訴訟の前段階、すなわち国税不服審判所ないし課税当局の再調査段階での納税者と課税当局との「和解」による訴えの取り下げが頻繁に行われているわが国の実務慣行をどうとらえるかという点であり、その是非について他国の類似制度との比較を交えた論稿を『租税法の発展』(有斐閣2010)の「租税法上の和解・仲裁手続」として上梓した。合わせて、来年度以降の研究の足掛かりとして、国際課税における紛争解決手段の一つである租税条約上の仲裁条項の意義についても言及している。
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