我が国の委任立法領域では、議会統制の不在および司法統制の形骸化によって、事実上、行政の自由裁量がごとき様相を呈している。それにも拘らず、我が国の委任立法は、質的にも量的にも拡大の一途にある。そこで、本研究は、我が国にも、委任立法への議会統制という制度枠組を構築するべく、これを最もよく制度化している英国議会を研究対象とし、かかる制度に対して比較憲法学的考察を行うことを目的としている。 かかる比較制度研究において、何よりも重要なことは、対象となる制度枠組の実体を知ることである。そのため、本年度は、実際に現地英国へ渡り、必要な情報収集とその分析作業に専心した。これにより日本国内では入手し得ない議会資料等を議会図書館等にて入手し、さらに当該研究領域の専門家であるロンドン大学等の研究者からも貴重な情報収集を果たした。そして当該情報を分析することで、近年、委任立法統制に向けて英国議会が精力的に展開してきた実に多元的かつ緻密な制度設計を体系的に整理することができ、さらに、制度を支える実体的な背景事情を確認することもできた。この点、英国議会では、議会の制定法レベルで過度な権限委任を抑制し、行政の委任立法レベルで、授権法との「手続的」整合性および「実体的」妥当性を統制する重層的な制度枠組を確立しているが、かかる事例研究は、議会統制不在の我が国には非常に多くの示唆を提供してくれるところである。 本年度は、以上の研究成果を得るとともに、その内容を2010年2月に関西憲法判例研究会にて報告している。また、この研究会報告で得た情報を踏まえて、2010年6月長野大学紀要31巻に論文として、公刊する予定である。
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