本研究の目的は、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の形をとる地域貿易協定(RTA)が重層的に締結されることに伴って生じる内在的問題について実証的に分析し、進行中のWTOドーハラウンド交渉に対して我が国政府及び産業界がとりうる方策を検討することにある。今年度は、WTOドーハラウンド交渉にほとんど進捗がみられなかったことから、研究実施計画の修正を余儀なくされた。この点、交付申請書において想定していた「研究が当初計画どおりに進まない場合にとりうる対応」に基づいて対応した。 具体的内容としては、第1に、今後RTAの締結等に伴って特に農林水産品の輸入自由化が進んだ場合の日本の国内産業の法的対応策について検討した(後掲11.「農業のグローバル化に対応するJAの役割の研究-農産品へのアンチダンピング措置に注目して-」論文参照)。第2に、経済統合の深化を続ける先進的RTAの一つであるEUにおいて、新規加盟がなされる前と後とでアンチダンピング措置にかかわる法制や運用に変化がみられるか検討した(後掲11.「EUによるアンチダンピング措置の最新動向の分析:規律強化と積極利用の同時進行」論文参照)。第3に、近年RTA交渉においても大きな関心が寄せられている投資分野の最新の研究動向を再確認し、分析を加えた(後掲11.)。また、日本が新たに締結したEPA及び加入の是非が問われている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)についても、従前の通り「他条約との関係」、「運営制度」、「事後の変更」に注目して分析を進めた。 これらの作業は、RTAをめぐって日々展開する情勢を追跡する実証的取り組みであり、最終年度における研究目的の達成に資するものであった。
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