本研究の目的は、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の形をとる地域貿易協定(RTA)が重層的に締結されることに伴って生じる内在的問題について実証的に分析し、進行中のWTOドーハラウンド交渉に対して我が国政府及び産業界がとりうる方策を検討することにあった。主要なEPA交渉やWTOドーハラウンド交渉にあまり進捗がみられなかったものの、あらかじめ研究計画段階で交付申請書において想定していた「研究が当初計画どおりに進まない場合にとりうる対応」の範囲内で重心移動を行うことでもって対応しつつ、研究の取りまとめを行った。 具体的内容としては、第1に、経済統合の深化を続ける先進的RTAの一つであるEUにおいて、新規加盟の前と後とでアンチダンピング措置にかかわる法制や運用に変化がみられるか検討した。関連して、EUのアザラシ禁輸措置のWTO協定適合性に関する分析を刊行した(後掲論文1点目参照)。また、EUと日本の間のEPAに関する制度的問題について分析した(後掲「学会発表」参照)。 第2に、近年RTA交渉においていわゆるISD条項に関連して大きな関心が寄せられている国際投資仲裁について最新の研究動向を再確認し、分析を加えた(後掲「論文」3本目参照)。 第3に、RTAとWTOに共通する課題として、国際義務の迂回防止に関する問題に光を当て、法的対応を検討した(後掲「論文」2本目参照)。 これらの分析に加えて、日本が新たに締結したEPA及び加入の是非が問われている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については、情報がまだ不十分であるものの、従前の通り「他条約との関係」、「運営制度」、「事後の変更」に注目して分析を進めており、今後成果を取りまとめる予定である。 以上のような作業は、RTAをめぐって日々展開する情勢を追跡する実証的取り組みであり、最終年度における研究目的の達成に資するものであった。
|