本研究は、「障害学」(Disability Studies)の視点を踏まえて、障害者権利条約等を手がかりとしながら、国内外の学説と判例を深く研究することにより、障害差別禁止に関する国際人権法の機能と限界を明らかにすることを目的とするものである。本研究を効果的に進めるためのカギとなるアイディアは、国際人権法の考察の中に「障害学」の知見を積極的に採り入れることである。 このような本研究の目的と計画に照らし、平成21年度は、たとえば次のような研究を実施した。まず、「障害者と国際人権法-「ディスアビリティ法学」の構築」と題する論文を執筆し、「障害学」の知見を国際人権法学に導入することを試みた(平成22度公刊予定)。また、松井亮輔との共編著『概説障害者の権利条約』において、「障害者権利条約の基礎」と題する論文を執筆し、「障害学」の視点を踏まえて障害者権利条約の理論的基礎を明らかにした(平成22度公刊予定)。 さらに、ロヨロ・ロースクールで開催された日米の障害差別禁止法に関するワークショップでは、'The Disability Convention and Japanese Law Reforms : Some Issues on Non-discrimination'と題する報告を行った。この報告では、「障害学」の知見も踏まえつつ、障害者権利条約における差別禁止規定に照らし、日本の法制度上の課題を検討した。 以上のような研究成果は、「障害学」の理論的発展にも資するものであるが、その理論的発展から得られた知見を国際人権法の(特に障害者権利条約)の文脈に代入することで、従来の国際人権法学には見られない新しい学際的方法を発展させたものと考えることができる。このことは、もちろん本研究の目的に資する学問的成果である。
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