本研究は、「障害学」(Disability Studies)の視点を踏まえて、障害者権利条約等を手がかりとしながら、国内外の学説と判例を深く研究することにより、障害差別禁止に関する国際人権法の機能と限界を明らかにすることを目的とするものである。本研究を効果的に進めるためのカギとなるアイディアは、国際人権法の考察の中に「障害学」の知見を積極的に採り入れることである。 このような本研究の目的と計画に照らし、平成22年度は、たとえば次のような研究を実施した。まず、「障害者権利条約と「既存の人権」」と題する論文を執筆し、「障害学」の視点を踏まえて国際人権論を検討した。また、松井彰彦及び長瀬修との共編著『障害を問い直す』において、「差別禁止法における障害の定義-なぜ社会モデルに基づくべきか」と題する論文を執筆し、「障害学」の基本的視点である「障害の社会モデル」の概念を法的文脈において分析した(平成23度公刊予定)。 さらに、アイルランド(ゴールウェイ)で開催された障害者法のコロキアムでは、'Coexistence of the Minority and Universal Models of Disability : Is It Possible in CRPD?'と題する報告を行った。この報告では、「障害学」の知見を踏まえ、障害概念の理論的枠組みを検討した。 以上のような研究成果は、「障害学」の理論的発展にも資するものであるが、その理論的発展から得られた知見を国際人権法の(特に障害者権利条約)の文脈に代入することで、従来の国際人権法学には見られない新しい学際的方法を発展させたものと考えることができる。このことは、もちろん本研究の目的に資する学問的成果である。
|