本研究の目的は、伝統的国際法における交戦団体承認制度の法的性格を明らかにすることである。交付申請書に記載した研究実施計画の通り、平成24年度は、1949年ジュネーヴ諸条約共通第3条の成立過程について調査・検討を行った後、これまでの研究成果を論文にまとめる作業を進めた。 平成24年度までの研究により明らかになったことを簡単にまとめれば、次の通りである。交戦団体承認の法的性質については、基本的な考え方として、①反乱者は、一定の客観的要件を満たすことにより交戦団体となり、交戦団体としての地位は既存政府および第三国に対して当然に対抗力を有する(交戦団体承認は宣言的効果しか有しない)とする考え方と、②反乱者の交戦団体としての地位は、既存政府または第三国の意思に基づく(交戦団体承認は創設的効果を有する)とする考え方が存在した。19世紀前半までの国家実行・学説では、ヴァッテルの影響により、①の考え方がとられていた。すなわち、反乱者の交戦団体としての地位は、反乱者が「もはや主権者に従わず、かつ、主権者に抵抗するのに十分な力を備え」るに至ったために、既存政府と反乱者との間の「政治社会の紐帯」が破壊されたという事実に基づいて認められたのである。他方、②の考え方は、既存政府または第三国と交戦団体との間の戦争法の権利義務関係を、前者と後者との間の合意、または後者が前者に対し恩恵的に付与する特権と捉える考え方であり、国際法上の権利義務の淵源を国家の意思に求める法実証主義と適合的な考え方であった。国家承認については、かつて法実証主義の立場から創設的効果説が支配的だったのに対し、今日では自決権などを根拠にして宣言的効果説が通説となっている。そうだとすると、新国家または新政府を設立するための戦いである内戦についても、②ではなく①の考え方が現代国際法の基本的枠組みと適合的であると言えるのかもしれない。
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