本年度は、国際裁判における判決理由義務の形成過程を検討した上で、義務違反(=理由不記載)の場合の法的帰結に関する研究を行った。研究の成果は以下の点にまとめられる 第1に、理論分析の結果、理由欠如(=理由不記載)は伝統的な仲裁裁判論における無効原因論の中で扱われていることが明らかになった。ただし、多くの判例で争点となるのは、単なる理由の「欠如」ではなく、理由の「不十分性」や「矛盾」であり、この点で理由義務の拡張が見られる。他方、理由の欠陥(不十分性等)が認定された事例は存在せず、この限りで理由義務の適用射程は限界を有する。 第2に、判決理由に関する重要判例としてアビエイ仲裁事件を検討した(判例評釈)。本件は、判決理由の「十分性」の基準を適用し、原審(アビエイ境界委員会)の報告書を取消し、自判した稀有な事例である。ただし、分析の結果、本件は適用法規の特殊性等に鑑みて、国際裁判の一般法の中に位置付けるには例外的要素が強いことが分かった。 第3に、国際司法裁判所における瑕疵治癒原則の形成過程と適用状況を分析した結果、管轄権を拡張するために、同原則が利用されていることが分かった。
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