本研究は、「国際司法裁判所(ICJ)の判決が現実の紛争解決に貢献したか」という観点からICJ判決の実現過程を考察することを目的としたものであり、本年度は、次年度以降に予定する実証研究が立脚する理論的考察枠組の整理を進めた。 まず、判決の実現過程に関連する概念である「履行」や「執行」の意味内容と相互関係について、ICJの制度枠組や学説等から検討をおこなった。そして、国連憲章上、「執行」制度(第94条2項)と「履行」義務(第94条1項)は、その主体(国連安全保障理事会-国家)および客体(判決-決定)の両面において区別されており、両者の区別は学説においても共有されていることを確認できた。また、こうした区別は、本案判決の事例と仮保全措置命令の事例との比較分析の結果、法的拘束力の意味内容に相違がみられたことからも首肯されるものと考える。 次に、ICJが採り得る判決内容のうち、本研究が検討対象とすべきものに関して、判決履行・執行問題の発生類型を請求(当事者の主張)との関連性で整理する作業を行った。その際、仮保全措置命令の事例も含めて検討することにより、違法性確認の「宣言判決」といった救済が履行・執行問題を回避するための手法となっていることを確認できた。このことから、確認訴訟型の救済内容を除く、給付訴訟型(賠償等)および形成訴訟型(領域得喪等)の救済について、本研究が考察すべき対象、すなわち「履行」・「執行」概念に包含すべき判決内容とすることが適当であると考える。
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