本年度も、前年度に引き続き、本研究が採用する理論的な概念設定の妥当性を検証するため、実証的な事例分析に取り組んだ。具体的には、国内的手続との連結が問題となった一連の死刑関連事件(ラグラン事件(本案、2001)、アヴェナ他メキシコ国民事件(本案、2004;解釈請求、2008))を分析対象として、関連する米国国内裁判所判決(メデリン事件(米国連邦最高裁、2008))とともに検討を行うことで、国際司法裁判所判決の国内実施可能性とその限界を明らかにすることを試みた。 これら事例においては、「違法行為の再発防止の保証」という救済、とりわけ、「有罪判決の再審査・再検討」という特定措置の実施命令が判決内容に含まれていたため、この点に対する米国の不履行が問題となったのであり、こうした命令形態の位置付けと問題点を中心に検討を進めた。 まず、アベナ解釈要請判決によると、国際司法裁判所はアヴェナ判決が「国内法上許容されていれば、直接執行可能性(direct enforceability)も妨げられない」と述べており、「個人の権利」が紛争主題を構成しているという特殊性はあるものの、国内裁判所を通じた判決履行の可能性が認識されていることを確認できた。 他方で、履行手段について判決の名宛人たる国家に裁量が認められており(「米国が自ら選ぶ方法で」)、履行手段の選択が各国国内法に依存していることもまた明らかとなった。本件で米国連邦最高裁は判決実施を拒否しているが、これは米国における条約の「自動執行性(self-executing)」概念の特殊性に起因しているため、本件における実施拒否が国際司法裁判所判決の国内実施一般に関わる問題と考えることは適切ではない。ここから、今後の研究に際しては、判決類型のみならず、国内法制度ごとの類型化も必要とされることが示唆される。
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