本年度では、競争法と事業法という2つの法の関係を明らかにするため、それぞれの法体系における企業結合事例を素材にして整理した。 具体的には、米国の情報通信領域における単一の企業結合事例に対して、複数の当局(競争当局である「DOJ」、「FTC」、規制当局である「FCC」)が、それぞれの所管する法の解釈運用の際に生じる多元性の実態を明らかにする作業を行った。米国の競争当局と規制当局による企業結合規制の多元性を分析することは、日本の独禁法と事業法、公取委と総務省の関係を再考するという意義があると考えられる。 米国の企業結合に対する法執行の多元性は、訴訟手続等において特に当事事業者に審理の重複という多大な負担をかけることになるとの予想は難くない。これを解決するために訴訟前後の関係当局間の協力関係は重要である。しかしながら、米国の事例を整理することで、競争法に基づく訴訟の場では特に競争当局に対して、従来規制当局が考慮する企業結合における公益性等の競争概念以外の証明等負担が生じる可能性が高く、結果、法執行の多元性に係る審理の重複は回避できず、また、競争法解釈に競争概念以外の表現の多様性などを含めるか否かという論点も惹起することになりうる。 それでもなお、企業結合法制度においては、競争法が担うべき役割が大きいことはこれまでの事例から疑うことはできないと言える。本年度における米国の事例整理からは、競争法と事業法の協働を考える上で両法の役割分担の必要性が求められており、その制度設計が両法に整合的な法解釈を提供するものでなければならない点が改めて確認された。特に、これまでに企業結合の事例において総務省と公取委との間における手続的な相互関与の場はなかった点は見直す必要があるとも言える。
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