平成21年度は検討分析のための基礎資料となるCMU及びAPAならびに各種社会扶助の現状に関する文献情報の収集に努めた。他方で、2009年8月に制定されたフランスの医療制度改革法(病院・患者・保健・地域法、通称HPST法)は、病院制度改革を主たる内容としつつ、その名称が示す通り4つの柱からなる医療制度改革を行うもので、議会での審議を通じて2008年10月に提出された当初の法案より条文を大幅に充実させて成立したものであり、本研究のテーマである医療・介護サービス保障にも大きな影響を及ぼしうる法律であった.例えば、HPST法では、2006年に社会問題化したCMU受給者に対する診療拒否や日本でも問題となっている医療提供体制の診療科間・地域間格差への対応策として、医療アクセス保障の問題が取り扱われている。そこで、急遽HPST法をめぐる議論をも研究の対象に含めることとし、文献の収集と現地調査による情報収集と検討に努めた。HPST法の特集を組んだ「保健社会福祉法雑誌」所収の文献や、HPST法に関するフランス医療法の研究者の著作・論文等を渉猟・熟読し、HPST法案をめぐる議論の詳細ならびに成立した法律の内容を把握する一方で、2010年3月にフランスに渡航して行った現地調査では、本来のCMUやAPA等に関する調査・資料収集に加えて、イル=ド=フランス地方医療保険金庫(CRAMIF)を訪問してHPST法の内容及び医療保険金庫に及ぼす影響等について聞き取り調査を行うとともに、フランス保健省の文献資料センターにて、HPST法の制定に関する資料を収集した。またその際、フランスにて在外研究中の日本人研究者(原田啓一郎・駒澤大学准教授、笠木映里・九州大学准教授)ともHPST法を含め、フランスの医療介護サービス保障法制に関する意見交換を行った。
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