本年度は、第1に、EUの差別法制一般について検討した。1957年ローマ条約および男女平等関係の指令採択前後の文献収集を進め、また、男女平等関係の指令と、年齢・障害を理由とする差別の禁止を求める指令に関する欧州司法裁判所判決の判断を検討して、差別禁止規制の増大と欧州司法裁判所の厳格な判断によって賃金差別規制が強まる傾向にあることについて分析を行った。第2に、雇用形態差別を禁止する規制の研究として、パートタイム労働に関する1997年の指令について邦語文献を中心に調査を進めるとともに、1999年の有期契約指令に関し、特にその解釈をめぐる欧州司法裁判所判決とイギリス法の展開について検討を行った。この点についても、差別法制の巌格化-比較対象者と厳密に同一労働に従事していなくても賃金差別を認定するなど-がみられる一方で、規制の実効性を減じる方向性-有期契約から無期契約への転換について一定期間の雇用継続を求めており、この雇用継続が認められにくいなど-がみてとれることを分析した。第3に、最低賃金制について、日本の法制の性格につき、歴史および諸外国との比較から分析作業を行い、日本の制度についてはしばしばその保護の程度の低さが問題にされるものの、全国にあまねく最低賃金が設定されていること、諸外国の法制とはその目的が異なるので比較に当たってはそのことを考慮すべきことなどを明らかにした。第4に、アメリカの差別禁止法制について、特に年齢・障害者差別に関する判例展開の分析を行った。その結果、アメリカの差別禁止法制には一定の柔軟性-保護の程度という意味ではその限界-がみられることを明らかにしている。第5に、日本の差別法制について、特に男女賃金差別に関する裁判例の分析を行い、どのような解釈上の問題が存在するかについて検討を行った。
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