研究課題
本年度は、EU諸国の差別法制および日本の差別法制についての検討を行った。EU諸国に関しては、同一労働同一賃金原則の発展過程をたどる作業にもっぱら取り組んだ。本年度は、EU諸国の中でも比較的早い時期から差別禁止法が発展してきたイギリスに焦点を当てて分析を進めた。具体的には、議会資料や労働法文献、とくに男女賃金差別規制の議論が始まった時期および実際に規制が導入された時期の文献を収集し、同一労働同一賃金原則がどのようなものと理解されてきたのかを検討した。また、EC指令(パートタイム労働に関する差別を禁止する1997年の指令および有期契約に関する1999年のEC指令)を受けて導入されたイギリスの法規制およびそのもとで展開されている判例・文献の収集・分析を行った。その結果、同一労働同一賃金原則は、日本で定着してきた年功賃金制度を廃止すべきことを導くような普遍的な法原則とまではいえないのではないかという感触を得た。これは、パートタイム労働等の雇用形態間賃金格差の是正のための法政策として、同一労働同一賃金原則の確立が必ずしも必要とはいえないという結論につながり得る重要な視点であるが、今年度は、EC指令が採択された経緯とイギリスなどの差別禁止法の実際の運用についての研究をほとんど実施することができなかったため、来年度、これら諸点の検討を踏まえたうえでさらに検討を深める予定である。日本の法制については、有期契約規制に注目し、とりわけ最高裁が打ち立てた「雇止め法理」の意義について、最高裁判決が出される以前の裁判例やドイツの学説・判例をもとに分析を行った。
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季刊労働法
巻: 230号 ページ: 213-224
報告書『非正規雇用問題に関する労働法政策の方向-有期労働契約を中心に-』
ページ: 239-266
for the XVIIIth International Congress of Comparative Law, 2010
巻: (Web)