本年度は、雇用形態間での差別禁止に向けて労使交渉がどのような役割を果たしているかということと、EU構成国のうちイギリス法以外の国についても検討を行ったうえで性別・人種等の伝統的な差別禁止アプローチがこの問題の解決に当たってどういう役割を果たしているかを検討し、かつ、成果として公表していくことを計画していたところである。第一の、労使交渉の果たす役割については、EU法に関して検討を行った。具体的には、雇用形態間での差別禁止が、パートタイム労働と有期雇用についてはEUレベルでの労働協約を実施する形での指令が基礎となっていること、他方で派遣労働についてはEUレベルでの労働協約を締結することができずに通常の採択過程をたどって指令採択に至りそれが基礎になっているということに着目して分析を行い、論文として発表することができた。前者のパートタイム・有期労働については、差別概念や例外の設定に関して規制のインパクトの点で限界がありそれが労働協約実施という手続面での特質に由来するものと議論されていることを明らかにした。また、派遣労働については労働者使用者のそれぞれの側で利益状況が相違するときには労使交渉による解決は難しいということを含意するのではないかとの指摘も行った。この点に関しては日本法でもパートタイム労働に関する差別禁止規定では要件が限定されていることなどの限界があり、雇用形態による差別禁止法制においては、EUでも日本でもこうした規制に限界があるという比較分析を行い、イギリスの学会において報告を行った。伝統的な差別禁止アプローチが賃金差別問題にどうかかわってくるかということについては、上記検討に予想以上に時間がかかったために十分検討公表できたとはいえないが、障害者差別禁止のみ一定の分析を行いカナダの学会において報告した。この成果も2013年中に論文として公表する予定である。
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