研究概要 |
本年度の研究成果は大きく2つある。(1)研究発表と,(2)調査である。 (1)研究発表については,日本とフランスの近年の状況を当初の研究目的よりも広い視野から分析した(「11.研究発表」の欄を参照)。日本については,医療保険に限らず,広く社会保険制度(年金・介護・労災・雇用)を対象として,近年の裁判例を分析した。それにより,他の社会保険制度と比較した場合の医療保険の財源-給付関係の特徴を一定程度浮かび上がらせることができた。また,フランスについては,医療保険給付の範囲の決定のあり方を検討する本格的な研究書の書評を執筆し,フランスの医療保険給付における近年の議論や傾向を確認することができた。 (2)調査については,2010年3月下旬にフランス・パリでヒアリング調査を行った。ヒアリングは,(a)大学教授,(b)社会保障関係機関(CRAM),(c)会計検査院に対して行った(ただし,(c)については日程の都合上,関係資料を送付していただくにとどまった)。フランスで医療保険に携わる研究者と実務家とのヒアリングを通じて,研究課題に関わる最新の動向に接することができた。とりわけ興味深かったのは,(ア)医療保険財源について,「社会保険料から租税財源への代替」という状況は停滞し,むしろ「社会保険料の軽減による雇用創出」という状況がみられ,軽減した分の財源をどのように確保するかが問題となっていることと,(イ)医療保険給付について,強制加入の医療保険制度に上積みされる任意加入の補足的医療保険制度の役割に関する議論があらためて注目を浴びていることが窺えたことである。
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