研究の三年目として、交付時には想定していなかったアメリカでの在外研究を継続した。2011年8月からはハワイからシカゴへと拠点を移し、年齢差別研究の大家であるEglit教授(イリノイ工科大学・ケントカレッジ法科大学院)の下で、年齢差別の法的メカニズム、アメリカにおける年齢差別の歴史、社会構造と年齢差別との関係、といった課題に取り組んだ。とりわけ、同教授が現在進めている、当該国の文化がエイジズムに与える影響についての研究からは、多くの示唆を得ることができた。 研究の発表については、本課題に関係する2冊の図書に関わった。1冊目は、『社会法の基本理念と法政策』で、「賃金差別の起算点と救済範囲」というテーマで、賃金差別の出訴期間に関わるアメリカでの新しい立法について、判例法理の分析を交えながら紹介し、日本法への示唆を試みた。2冊目は、自らも編者となった『解雇と退職の法務』で、「辞職・合意解約と退職勧奨」と「定年と継続雇用」を担当し、とりわけ後者が本課題の成果と強く結びついている。そのほか、アメリカの法と社会学会にて、Mark A. Levin教授(ハワイ大学法科大学院)とともに、日本における社会運動の交錯をテーマに、ラウンドテーブル方式にて報告を行った。本研究課題と関係では、外国人労働者への雇用差別に関する部分を担当した点が挙げられる。 今後は、これらの知見を反映させるべく、単著である『雇用における年齢差別の法理』の改訂作業を進め、本課題の最終的な成果としたい。
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