障害者権利条約を批准するに際して、障害者教育に関する法律の中に合理的配慮の規定を組み入れることは不可欠である。本研究は障害者教育についての法制度等が高度に整備されているアメリカ法について検討を行い、日本法への示唆を得ることを目的としている。2009年度の研究において報告者(=今川)は以下のことを明らかにした。 (1)アメリカ合衆国の障害者教育法(以下IDEA)について IDEAにおいて合理的配慮に該当するのは「無償かつ適切な公教育」の保障である。個々人のニーズによつて異なる「適切な教育」に対応するために、IDEAは手続的デュー・プロセスに基づく詳細な手続を定めており、一連の手続を通すことでそれを保障するという法構造がとられている。報告者は、2009年度の研究において一連の手続制度(告知・聴聞、情報公開、メディエーション、不服申立て等)の仕組みを明らかにした。 (2)IDEAに関する裁判例について 障害者教育に関する裁判は、障害児に「無償かつ適切な公教育」が保障されているか否かを問うものがほとんどなのであるが、インクルージョンと適切な教育の保障が対立する事例、証明責任、親の権利を問う事例等その内容は多岐にわたる。2009年度の研究においては、連邦裁判例、州裁判例双方の主要なものを選別し、各論点を整理する作業を行つた。 (3)日本法における障害者教育法の現状 2009年6月26日に奈良地裁から、障害児の教育的権利をインクルージョンの理念等により判断する画期的な決定が出された。しかし当該決定を検討することで、親、児童の手続的権利に関する法制度の不備、適切な教育とインクルージョンの境界について等、日本の障害者教育法領域には検討すべき問題が山積されていることも明らかになった。法制度については上記(1)の検討から手続的デュー・プロセスの概念を導入する必要性等が考えられるが、実体的な問題については(2)の研究を深化させ、一定の法理を導き出すことが有効であり、これについては2010年度の課題としている。
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