本研究は、処罰の早期化傾向が指摘されているドイツの詐欺罪関連規定を手掛かりとし、日本の状況と比較検討することを通して、財産犯としての詐欺罪規定と「システム保護」的観点との関係につき示唆を得ることを目的としている。近時、いわゆる「振り込め詐欺」の横行や、食品の産地偽装の相次ぐ発覚など、詐欺的行為とそれによる被害が社会的な問題となっている。そして、刑法上の詐欺罪(246条)の成否の判断には、詐欺的行為の処罰に関していわゆる「システム保護」的な側面を特別刑法上の規定ではなく刑法上の詐欺罪規定に担わせるのか否かという問題も関係している。 本年度は、主として、刑法上の詐欺罪規定と特別刑法上の前段階構成要件の適用関係についての検討を行った。詐欺罪の成否は、特別法上の罰則規定に該当するか否かとは独立に判断される。他方で、特別刑法上の罰則規定の中には、詐欺罪のいわば前段階構成要件ともいうべき規定が存在する。それらの規定の保護法益や立法趣旨を検討することを通して、詐欺罪規定とその他の罰則規定との適用関係や「住み分け」についての考え方を示したことは、今後、詐欺罪の成立範囲の限界を考えるために役立つと考えられる。 さらに、本年度は、ドイツにおける詐欺罪関連規定の新設・改正の内容と経緯について把握に努め、検討をはじめた。ドイツにおけるこれらの動きは、1970年代以降にはじまったもので、その方針は、犯罪の実態に即した刑事規制の必要性に対応するための詐欺罪関連規定の具体化・詳細化であると言えよう。日本とドイツでは、背景にある社会状況につき共通している面があると思われる。そこで、この点についての検討を、次年度に継続して行いたい。
|