研究概要 |
初年度にあたる平成21年度は,迅速な裁判の保障と刑事出訴期限制度の関係について言及したアメリカ合衆国最高裁判所の判例を分析し,一般的に,迅速な裁判の保障と刑事出訴期限制度の関係がどのように理解されているか,という点について分析を試みた。 初期の最高裁の判例においては,アメリカ合衆国憲法修正6条の迅速裁判条項の趣旨は,専ら(1)不当且つ威圧的な身柄拘束,並びに,(2)公的な告発に伴う不安と懸念から被告人を保護することにあると考えられていた。このように同条項の趣旨は,公判前の被告人に対する自由の制約と関連付けて理解されており,(3)時の経過による防御権侵害に対する保護は,同条項ではなく,適正手続条項又は出訴期限制度の問題であるとされていた。この時点では,迅速な裁判の保障と,出訴期限制度とは,目的の点で明確に区別されていたといえる。 しかし,その後,最高裁は,(3)も同条項の趣旨に含まれる,との解釈を示し,更には,訴追の事実を認識していない--すなわち,(1)(2)の点が問題になり得ない--被告人に対しても,(3)の点を理由に同条項による保護を認めるに至っている。このような最高裁の立場に対しては,犯罪後迅速に裁判にかけられる権利を承認するものであり,従前の解釈を離れ,迅速裁判条項を憲法上の出訴期限制度に変容させるものであるとの批判がなされている。他方で,これを受けて,時の経過による防御権侵害に対する保護の点で,迅速裁判条項と,出訴期限制度とは,趣旨を同じくしていると捉え,迅速裁判条項の適用に係る判断枠組みで示された考慮要素を参照して,出訴期限制度を再構築する試みが見受けられる。そこでは,時の経過のみを基準として一律に訴追を制限する従来の形式から,考慮すべき要素を複数あげ,事案毎に訴追の許否を判断する形式への転換が図られている。
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