告訴権・親告罪をめぐる犯罪被害者に対する刑事司法の対応に関して、東京高裁平成21年8月6日判決(公刊物未登載)を素材に検討し、刑事法ジャーナルに掲載した。結論として、(1)告訴・親告罪制度において実際上は示談が大きな課題となっており、告訴取消しの場面では法テラスなどを活用した弁護士などの適切な第三者の介入・補助が必要である、(2)告訴取消し期限後には検察官による公訴取消し制度を活用すべきである、(3)検察官の広範な起訴裁量は告訴取消し可能性には及ばず、告訴取消し意思の存否について検察官の確認義務を肯定すべきである、(4)過度の説得は二次被害の原因となりうるものであり、捜査機関にはより慎重な対応が求められるとした。 いわゆる告訴権の濫用の問題に関して、明治大学法律研究所の法学研究会にて報告し、その要旨を法律論叢に掲載した。この目的は、犯罪被害者の権利の正当化の根拠とその本質的限界を探ることである。ここでは、ドイツにおける議論を参考にしつつ、いわゆる告訴権の濫用を濫用的行使と濫用的不行使に分類したうえで、それぞれに対する実体法的対応と手続法的対応を体系的に整理して検討した。その結果、従来の法制度・実務・理論における犯罪被害者に対する慎重な姿勢が確認された。 このほか、平成22年度の研究計画には、告訴権・親告罪の歴史的生成・発展過程、ドイツにおける条件付親告罪制度、公訴参加と告訴との関係等の検討が含まれているが、この研究成果は、平成23年度の研究計画内容とともに整理・再検討のうえ、追って公表する予定である。
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