まず、「いわゆる告訴権の濫用とその法的対応論序説」において、いわゆる告訴権の濫用(不当告訴)について、濫用的行使と濫用的不行使に分けて分析し、その法的対応論を俯瞰的に考察した。 それを受けて、「告訴権の濫用的行使と民事不法行為責任(一)」において、告訴権の濫用的行使に対する民事不法行為責任の成否について検討した。分割第一回では、関連判例を俯瞰してその要点をまとめたうえで、問題の所在を明らかにした。具体的には、告訴が不法行為を構成するか否かについて、《A》告訴制度の趣旨・目的、《B》被告訴人の不利益・負担、という二つの観点を提示した。また、判例で求められている告訴人の注意義務の程度には幅があるが、不法行為の成否の判断の基準視点は告訴人側とすべきこと、判断の基準主体は通常一般市民とすべきこと、判断の基準時は行為時とすべきこと、市民の調査能力を考慮すべきこと、弁護士が告訴人本人または代理人である場合には特別な考慮が必要であること、告訴内容と客観的事実が食い違った場合でも一定範囲で不法行為が成立しない場合があること、などを指摘した。 また、「任意代理人による告訴と被害者支援思想」において、任意代理人による告訴(刑事訴訟法240条前段)という制度は、被害者支援思想に基づく先駆的制度として評価できるとした。具体的には、制度の趣旨をめぐるわが国の議論の状況のほか、任意代理人による告訴をめぐるドイツの議論の状況、明治初期から現在に至るまでの当該制度に関する議論の歴史的展開、現代社会において告訴任意代理制度に期待される機能と弁護士の役割など、任意代理人による告訴について総合的に検討した。 このほか、本年度の研究計画には、条件付親告罪制度を参考にした刑事訴追論、ドイツにおける公訴参加制度と告訴との関係に関する議論の検討が含まれるが、この研究成果は、整理・再検討のうえ、追って公表していく予定である。
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