平成21年度は、ファンドが用いる戦略とその法的問題についての研究に取り組んだ。 ファンドには様々なタイプのものがあり、その用いる戦略も多様であるが、買収ファンドの投資と回収の戦略についての研究を中心に行った。買収ファンドの代表的な投資回収戦略(exit strategy)はMBOであり、近年日本においてもMBOに関する事件が増加しており、実務的・理論的重要性が高まっているので、これを重点的に取り扱った。 MBOは株主と経営者の間に構造的な利益相反が生じうる取引である。会社の外部者であるファンドが主導するMBOであっても、利益相反の懸念は拭えず、取引の公正性への疑念は残る。企業価値を高めるような望ましいMBOは奨励し、そうでないMBOは抑制する必要がある。現在の日本においては、上場会社のMBOは公開買付けと全部取得条項付種類株式の取得を組み合わせて行われることが多い。そのため、現在の日本法の下では、望ましいMBOとそうでないMBOの選別は、全部取得条項付種類株式の取得価格の決定の申立ての中で行われている。近年のMBOにおける全部取得条項付種類株式の価格決定についての裁判所の判断を見ると、概ね適切に望ましいMBOとそうでないものを選別しているといえる。しかし、取得価格決定の申立てによる選別では、MBOが実際に完了するまで選別機能を働かせることができないし、取得価格決定を申立てた株主にしか救済が与えられず、価格という取引の中核的な内容に裁判所が介入する必要があるためMBO実行者のインセンティブを損なう危険が高いなど、いくつかの重大な限界がある。このような限界があるので、差止めの柔軟な活用を検討すべきである。
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