本研究の目的は、ファンドの活動がコーポレート・ガバナンスやM&A取引にもたらすネガティブな影響を緩和ないし除去するための方策を検討することにある。近年の日本においては、上場会社の経営者とファンドが組み、一般株主を会社から締出すことで非上場化を図るMBOが増加している。MBOにおいては取締役と株主の間に構造的な利益相反状況が生じ、一般株主の犠牲の下で経営者・ファンドが不当な利益を得ていると思われる事案も少なくないように思われる。そのため、本年度は、MBOを中心に利益相反M&A取引における株主の救済を中心に研究を行った。 MBOにより会社の所有構造や取締役のインセンティブ構造が変わり企業価値を高める可能性があるので、MBOに対する過度な規制は避けるべきである。MBOを行う取締役や支配株主に義務を課すことにより、自発的にMBO取引の質を向上させるようなインセンティブを与えるべきである。近年は、MBOを行う取締役は「株主の共同利益に配慮する義務」があるとしたレックス・ホールディングス損害賠償事件の東京地裁のように、取締役の株主に対する義務というものを観念する裁判例も登場している。しかし、現時点での裁判所の設定する義務は不十分である。レックス事件の裁判所の設定する義務は、既存株主を害さない(従前の状態を悪化させない)という消極的な義務にすぎず、株主の利益を向上させるという積極的な義務ではないからである。一定の場合には、いわゆるレブロン義務類似の義務も観念すべきである。ファンドの支配株主としての側面にも注意が向けられておらず、支配株主と少数株主の間の利益相反問題は放置されたままである。支配株主の少数株主に対する義務も一定の場合には認められるべきである。
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