平成23年度においては、研究実施計画にしたがって、前年度に引き続き、ドイツ法・フランス法を中心とした比較法的検討を行ったほか、それによって得られた知見を日本法における規律ないし解釈論に適用するための作業を行った。そのうち、研究成果として挙げるべき点としては、次のものがある。 第一に、訴訟上の和解の法的性質論との関係では、前年度に引き続き、ドイツ法とフランス法の対比、また、裁判上の和解と裁判外の和解の対比という二つの軸を設定しつつ、訴訟上の和解の訴訟終了効及び裁判外の和解の効力について検討を行った。その一つの成果として、近時の日本の判例は、一方で、裁判外の和解の合意内容の中に訴えまたは上訴取下げの合意を読み込むことによって、訴えまたは上訴の利益という中間概念を介してではあるが、民法上の和解契約にも訴訟終了効類似の効果を承認するフランス法と類似の帰結を志向するものと一見評価できること、他方で、判例は、裁判外の和解の場合には、別段の合意の存在によって異なる取扱いをする可能性を示唆しているが、これは、本案判決を受ける可能性に関して、実体法上の和解契約とは相対的に独自の訴訟法上の合意を認めることを意味し、その点ではドイツ法の発想に近い立場であること、また、この立場は、実質的には、いわゆる訴訟契約説に親和的であることを明らかにした。 第二に、訴訟上の和解の効力論の関係では、法的性質論に関しても指摘した当事者意思との関係が一つの軸をなすが、問題の解決に当たっては、既判力、執行力といった制度の実質的な正当化根拠一般についての再検討を要するとともに、とりわけ既判力の理解に関するドイツ法とフランス法の差異が、この点についての示唆を含むものであることを明らかにすることができた。
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