本年度は、前々年度および前年度から継続して、ドイツ法における訴権論についての研究を行った。その結果、原告の訴権と被告の応訴義務の正当化課拠を詳らかにするためには、民事訴訟手続における裁判所と当事者(原告および被告)との関係についての考え方(審理過程における事実と証拠の収集・提出については、弁論主義/職権探知主義、審理対象の決定については、職権調査事項/抗弁事項という対立する原則・概念がある)の意義・内容を特定したうえで、訴訟物(実体法上の権利義務関係)に関する原告と被告との実体法的な法律関係の内容に着目した議論がなされるべきであることが明らかになった。 また、このことは、わが国の民事訴訟法の母法であるドイツ法とは法体系を異にするイギリス法およびアメリカ法においても妥当することが、イギリス法およびアメリカ法における訴答(プリーディング)手続およびディスカヴァリー手続の史的展開についての検討からも明らかになった。 さらに、各論的な研究として、民事訴訟における損害額の認定(評価)について照準を合わせて、損害額の認定プロセスの特殊性に留意しつつ、そのプロセスにおける裁判所と当事者(原告・被告)との関係、および、原告(損害賠償請求権者)と被告(損害賠償義務者)との関係に着目して、その規律内容を明らかにする研究を行った。具体的には、日本民事訴訟法248条の立法の際に参考とされたドイツ民事訴訟法287条に関するドイツ法における議論と、いわゆる明治民事訴訟法が、損害額の認定に関する規定を立法しなかった理由を明らかにするために、明治民事訴訟法および大正民事訴訟法の立法資料およびその当時の学説・判例についての検討を行った。その結果、損害額の認定は、通常の事実認定とは異なるプロセスであり、そこに適用される規律も、通常の主要事実に関する規律とは異なる規律が適用されるべきであることを明らかにした。
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