今年度に行った研究は、大別すると以下の二つの方向性に分けられる。 第一に、昨年度から引き続き、戦前の我が国において、株式取引所を規律していた取引所法制の法目的に関して歴史的・理論的観点から研究を行った。今年度は立法を遡り、まず明治20年制定の取引所条例の目的規定(第1条)の立法の沿革について調査した。ここでは日本における立法の議事録を調査し、ついで外国法の継受について調査を行った。その結果、同条例の草案はロエスレルがドイツ法、アメリカ法等の外国法の影響を受けつつこれを作成し、これを元に当時の日本人研究者、立法担当官らが日本独自の事情を加味して立法されたものであることが明らかとなった。さらに、明治26年に制定された取引所法の下では目的規定は設けられなかったものの、同法の下での学説は取引所の経済的機能を非常に重視していたこと、学説には取引所法を商法の特別法と位置づける主張のほか、公法・行政法と位置付ける主張も見られたことについて、当時の書籍、雑誌論文をもとに調査した。現在、証券市場は主に金融商品取引法の規律に服しているところ、同法は資本市場の機能の十全な発揮による公正な価格形成を謳っているように、市場の機能を重視している。戦前における議論にも市場の機能を重視する傾向があることから、現行法に大きな示唆があるように思われ、戦前の取引所法制と現在の証券市場法制における判例・学説を比較・分析する上で重要な視点が得られたように思われる。当該調査に基づく分析は現在執筆中であり、早急にその成果をまとめたいと考えている。第二に、現行の金融商品取引法の研究である。今年度は特にインサイダー取引について、判例・学説・立法論を整理した。
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