身体の完全性を処分する自由というテーマは、私にとっては新分野の開拓であるため、研究1年目の本年度は基礎的な事項を明らかにするという段階にとどまった。しかし、フランス語論文が完成するなど成果も少なくなかった。 身体の完全性を処分する自由という問題は、民法に限らず幅広い射程を有する問題であるため、出発点としては射程を絞る必要があると考えた。そこで、「研究の目的」にあるように、代理懐胎をする側の女性の自由があるかという問題を出発点に据えるべきであると考え、代理懐胎は身体の処会不可能性原則に反する判示したフランス破毀院全部会1991年5月31日判決の分析に関する論稿を準備している(伊藤昌司教授古希記念論文集に発表する予定である)。また、代理懐胎の問題を考える際には胎児の法的地位の検討も重要であり、阪神電鉄事件(大判昭和7・10・6)に関する評釈も発表した。 その他、「研究実施計画」に紹介した2005年のヨーロッパ人権裁判所判決は刑事法に関する判決であるため、ヨーロッパレベルの刑事法規範についての基礎的知識を得るため、ヨーロッパ人権規範がフランス刑事法に与える影響についてのデュパルク准教授(アンジェ大学)の論文の翻訳を発表した。また、婚姻制度の変容、事実婚の増加が代理懐胎の可否にどのような影響を与えるかという問題も重要であると考え、フランスのパクスという婚姻外のカップルの登録制度の法改正についての研究も発表した。 さらに、代理懐胎の問題は、契約法上の公序の問題としても位置付けられるが、この点につき、トゥールーズ第1大学のカステ=ルナール准教授と共著で、「ヨーロッパ契約法原則が日本とフランスの改正草案に与えた影響」と題する論文をフランス語で執筆した。現在Revue Internationale de Droit Compare誌に投稿済みであり、審査を待っている。このカステ=ルナール准教授との共同研究は、本年度のフランス出張の第一の成果である。
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