本年度は、2年計画の本研究の2年目であったが、本年度の研究実施計画通りの研究を行うことができた。 1.第1に代理懐胎について、「身体の処分不可能性」を理由として、代理懐胎により出生した子と代理懐胎を依頼した夫婦との間の完全養子縁組を認めなかった、フランス破毀院全部会1991年5月31日判決を分析する論文を書いた(伊藤昌司教授古希記念論文集(法律文化社)に掲載される予定であるが、未刊行)。この判決では、身体の不可処分性というものを養子縁組の成立を否定するロジックとして用いているが、このロジックの自明性について疑問を持つ学説も有力であった。フランスでも、法は、身体を構成する母乳、血液、精子、卵子といったものを、贈与、すなわち契約の目的となり得ないものとはしていない。その中で、代理母の受胎機能を契約の目的とできないのはなぜかについて学説上議論されている。フランスでは、現在法律上代理懐胎は禁止されているが、その出発点にある判決のロジック自体実は自明ではなく、学説上も限定的容認論が有力に唱えられていることが分かった。 2.第2に、サド・マゾ行為を処罰したベルギー政府に対し、身体の完全性を処分する自由は個人の自律の領域に属すると判示した2005年のヨーロッパ人権裁判所判決について、研究報告を行った(神戸大学にて、2011年1月29日)。研究報告後の討論において、この判決と代理懐胎の可否については事案として距離があるのではないかという指摘があったが、現にフランスではそのような問題設定をする学説もあるため、今後両者がどう関連性を持つか分析を深めた上で、論文として公表したいと考えている。 その他、ヨーロッパ法がフランスや日本に与える影響について、契約法の視点から分析した論文をフランスにおいて公表するとともに、モルフェシス教授(パリ第2大学)による民法と憲法の関係についての講演を通訳し、原稿訳を公表した。
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