上場会社が有価証券報告書等の虚偽記載等を行った場合に、上場会社自身が、株主又は投資家に対して損害賠償責任を負うか否かを、具体的な題材として検討を行った。このよう場合、株主間又は投資家間で利害衝突が生じるため、単一の「株主利益」又は「投資家」を想定することが非常に困難となる。具体的には、西武鉄道事件やライブドア事件を初めとする裁判例の収集と分析に加えて、この問題について、アメリカ法を中心に理論的・実証的な研究業績の収集を行った。アメリカ法の分析からは、上場会社自身の損害賠償責任は、虚偽記載等の抑止と損害を被った投資家の救済の双方において、その実効性に疑問が付されていることを明らかにすることができた。また、有価証券報告書等の虚偽記載等によって損害を被る投資家と利益を得ることができる投資家が存在すること、上場会社が損害賠償責任を負担することによって有価証券報告書の虚偽記載等によって損害を被った投資家がさらなる損害を被ることを明らかにすることができた。以上の成果を踏まえて、日本法において、有価証券報告書等の虚偽記載等の抑止と損害を被った投資家の救済の手段として、上場会社の損害賠償責任を利用することの是非について理論的な検討を行った。そして、経済学者と民法学者が参加する研究会において、本研究の成果を報告することを通じて、平成22年度の研究に有用な示唆を得ることができた。また、民法709条の特則を定める金融商品取引法(旧証券取引法)の規定の解釈が問題になった最高裁判例を題材にして、本研究の成果の具体的な法解釈に反映させることを試みた。その成果は、既に公表済みである。
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