グループ内取引の規整においては、グループ全体の利益や親会社の利益のために、グループ構成会社の利益が害される危険があることと、グループ全体の利益を追求する実務上の要請に配慮することが必要となる。フランス法は、個別の取引よりもグループ政策に着目してグループ内取引の正当性(取締役の責任が否定されるという意味での正当性)を審査することで、取引条件を厳格には規律しない。取引条件を厳格に規律しない代わりに、フランス法は、次の事情を、取引を正当化するための要件とする。すなわち、(1)相手方に有利な取引が、長期的にみれば負担を引き受ける会社にとっても利益となるような関係が当事者に認められること、(2)グループ利益のための会社の犠牲が会社の財産能力の範囲内であること、および、(3)グループ政策について各会社の取締役会または株主総会の承認があること、である。支配・従属会社間の取引には、これに加えて、商法上、個別の取引について取締役会および株主総会の承認が要求される。これらの要件により、グループ構成会社の利益が害される危険に対処がなされる。 日本では、従来、前記危険に配慮して、取引条件を規律する規整方法が提案されてきたが、これによれば、上記の実務上の要請への配慮に限界が生ずる。そこで、取引条件を厳格に規律せず、他の方法によりグループ構成会社とその利害関係者を保護することが考えられるが、このような方法をとるドイツの契約コンツェルン規制は日本には馴染まないと指摘されてきた。フランスの規制方法は、契約コンツェルン規制の他にも取引条件を厳格に規律しない規制の方向が存在することを示し、日本で従来提案されてきたのとは異なる解決の選択肢を提供する。特に、フランス法における前記(1)、(2)の要件は、グループ内の他社に対する金融支援に関する日本の裁判例の考え方と類似しており、日本の裁判所にも馴染み易いと考えられる。
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