経済学では物的担保(Collateral)の機能として、(1)債務者の返済能力を識別して逆選択を抑制する役割、(2)情報の非対称性・不完備契約における債務者のモラルハザードを防ぐ役割、が言われている。法律学でも担保を機能としての視点から、(1)優先弁済確保機能、(2)倒産隔離機能、(3)管理機能、との分析が提示されている。また、事業継続に貢献するのが良い担保として「生かす担保」、端的には「実行を前提としない担保」概念も提唱され、特に倒産時の担保の効力が論じられてる。 地域金融機関の中小企業に対するビジネスモデルである地域密着型金融という実態と金融論における先行研究の貸出技術という概念から、トランザクション貸出では従来の換価処分の担保像が妥当するが、リレーションシップ貸出ではソフト情報の蓄積及びwin-winの関係構築さらに地域の面的再生の手段としての担保と法的に認識・評価する必要がある。即ち、リレーションシップ貸出での譲渡担保は、処分権原ではなく事業の管理・関与権原確保のための権利譲渡である。担保の具体的な意図(機能)は、(1)在庫や債権管理の情報を一体的に共有するため、(2)取引や事業展開に積極的に関わる経営関与のため、(3)M&Aや事業譲渡の際に事業の一体性を保全するためである。この実体的権利関係を理論的基礎とすることで、企業パートナー・地域コーディネーターとしての担保権者(地域金融機関)に対して適切な効力を導くことができる。 九州の地銀・信組・信金へのアンケート調査によると、従来の担保像である「個別の物や債権を換価処分して優先弁済を確保」の対極として「事業の一体性を確保して地域経済の維持発展のため多少のロスは引き受ける」という傾向が確認でき、本研究の理念型は一定程度裏付けられた。
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