研究概要 |
今年度は,イギリス倒産法における管財人等の機関に関して,研究を進めた。まず,イギリス倒産法における管財人について,一九八六年イギリス倒産法の成立過程とその後の改正について研究した。その研究成果を日本民事訴訟法学会大会にて報告した。この研究の結果,イギリスでは,管財人とは別に,管財官という公益を保護する行政機関が,債務者の調査について重要な役割を担っていること,管財官の制度が行政コスト削減の観点から役割を見直された時期があったこと,それでもなお,管財官制度は維持されていることなどが明らかになった。また,一九八六年イギリス倒産法が二〇〇二年エンタープライズ法によって,大きく改正されたが,じつは,コーク・レポートの影響を受けていること,倒産実務家資格制度が導入された意義は,破産や強制清算の手続との関係では管財人の裁量を拡大することを正当化するという側面をもつものとして位置づけられることがわかった。今後は,以上のようなイギリス倒産法の背景事情をふまえつつ,倒産実務家資格制度が目指した柔軟な事業再生手続の適正化の観点から,包括担保権の実行手続である管理レシーバーシップ,事業再生のための手続である会社管理について,それぞれ検討する予定である。二〇〇二年エンタープライズ法によるそれらの手続の関係が改正された背景,管理レシーバーシップと会社管理の関係がどのように変化したのか,改正後の運用などについて研究する必要がある。 今年度は以上の成果をふまえて,イギリス倒産法における事業再生に関する手続の研究と,わが国の倒産法における取戻権と別除権など包括担保権の基礎となる倒産実体法研究をすすめる予定である。
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