当年度の研究では、契約締結過程において情報面・交渉力面で問題のある消費者契約の効果面に関して、民法上の契約取消権や解除権・損害賠償請求権、ならびに、消費者法上のクーリング・オフ権等について、ブラジルおよびスペイン語圏の法律を参考に比較法的な検討を行った。ブラジル消費者法その他では、8日間のクーリング・オフ期間の起算点を契約締結時ではなく目的物受領時まで遅らせている。この点、時効期間の起算点と比較すると、事業者の側での目的物引渡債務については同債務が請求可能となる時期、すなわち、契約成立時が起算点となり、これ以前にも以後にも当該期間をずらすことは法的安定性を害することになるわけだが、クーリング・オフ期間では、同権利がそれ自体すでに消費者のための特別な権利であることに加えて、起算日まで遅らせていることになる。このことの正当性について考えると、とりわけインターネットを通じた通信販売においてホームページ等で掲載されていた商品と実際に届いた商品の間に何らかの差異がある場合に、その効果は、従来の契約締結過程の問題として、情報面の暇疵から引き出される取消権あるいは契約不適合による解除権や損害賠償請求権が付与されるにとどまらず、交渉力面からも、店舗販売とは異なる販売方式を採用した上でそれを濫用した場合には(例えば店舗販売では買い手がつかないような商品の場合など)、それに対するサンクションとして、クーリング・オフその他による契約解消や損害賠償義務を負う場合があると考えられる。
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