研究概要 |
本研究は,フランス法との比較研究を通じて,三者間相殺の要件および第三者への対抗力も含めた効果を検討し,これを明らかにすることを目的とする。 わが国の民法典においては,相殺の要件として,2つの債務が当事者に対立していることが要求されている。このため,三者間相殺は,第三者が相殺を援用する場合とか,債権が譲渡されたために三者間にまたがって存在するに至ったというような例外的な場合に限って認められているに過ぎない。また,判例も,個々の規定が存在しない場合には三者間相殺を認めない傾向にあるため,これまで,学説においても,これらの規定を統一的に理解するための理論が形成されてこなかった。しかし,実務では,近年,三者間相殺に関する関心は高まりつつあり,しかも,債権法の改正が現実的なものとなりつつある現在,三者間相殺に関する統一的な要件・効果を発見することは喫緊の課題となっている。 このような問題意識に基づいて,本研究においては,第1年目に該当する平成21(2009)年度において,三者間相殺の判例分析に着手し,(1)相殺の抗弁存続(接続)型,(2)固有の三者間相殺型,(3)援用者拡張型の3類型について(類型については,深川裕佳「三者間における相殺の類型的検討」東洋法学52巻2号(2009年3月)21-53頁),特に,(2)および(3)類型については,自らが受働債権の債務者ではないが,〓取力に服している者(たとえば,物上保証人)が相殺の意思表示することによって,2つの債務を同時に消滅させることができるという特徴があることを明らかにすることができた(深川裕佳「三者間相殺をめぐる判例法理の検討」東洋法学53巻2号(2009年)65-96頁)。
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