研究課題
本年度の研究目的は、建築基準法の規定する道路が通行・安全・衛生・防火等の公共的利益の実現を目指しているにもかかわらず、そのための建築基準法上の制度・仕組みが十分に機能していないところ、民法の判例が、建築基準法上の私道を通行する者に当該私道の通行妨害を排除する権利を与えるという形で、上記公共的利益の実現に一定の役割を果たしているのではないかとの問題意識から、この分野における建築基準法の機能不全が何に起因するのか、そして、建築基準法のそのような構造と関連づけて民法がいかなる意義を果たすべきかを考察することに置いた。具体的には、主として日本法における判例・学説を分析した結果、次のような知見が得られた。第一に、制度面と実際面において建築基準法の機能不全が見られる。建築基準法上の私道において通行妨害等が発生し、上記の公共的利益の実現が妨げられる場合、建築基準法においては特定行政庁による各種の措置が制度的に予定されているものの、かかる措置を講じるかどうかは特定行政庁の専門技術的な裁量に属しているため、特定行政庁の介入が行われるとは限らない。しかも、特定行政庁がこの種の措置を講じることには、予算上の制約等の様々な実際上の制約があるという。第二に、民法は、建築基準法の以上のような機能不全を補う役割を果たしている。民法の妨害排除請求権は、一定の要件を充足すれば成立し、かつ、通行妨害者(私道所有者)がこれに従わなければ、権利者はその強制的な実現を図ることも可能である。これらの点において、民法上の手法(妨害排除請求)には、建築基準法の制度的・実際的な制約を克服する可能性が見出されるといえる。もっとも、特定行政庁に見られる実際上の制約の実像やドイツ法の議論状況については、考察の不十分な点があるため、来年度の課題としたい。
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法学セミナー
巻: 665号 ページ: 88-93
消費者法判例百選(廣瀬久和=河上正二編)(有斐閣)
巻: 別冊ジュリスト200号 ページ: 156-157
巻: 666号 ページ: 91-95