研究概要 |
本年度の研究目的は、日本法において、判例が、建築基準法上の私道を通行する者に当該私道の通行妨害を排除する私法上の権利を与えるという形で、民法も上記公共的利益の実現に一定の役割を果たしていると見られることと対比して、ドイツ法の状況がどうなっているかを分析することであった。ドイツ法の議論状況については、分析をさらに深める必要があるが、現時点では、次のような推測が成り立つのではないかと考えている。 第一に、ドイツ法の議論では、建築基準法(に該当する法律)の道路が実現しようとしている公共的利益について、民法もかかる利益の実現に一定の範囲で参画しようという問題意識が乏しいと見られることである。日本法において、判例を契機として、このような問題意識が広く認識されるようになったこととは対照的であるといえよう。 第二に、第一で述べたことの背景として、ドイツ法においては、建築基準法(に該当する法律)が道路の公共的利益を確保するための法制度を整備しており、その運用も厳格に行われていると推測されることである。そうだとすると、ドイツ法では、建築基準法(に該当する法律)の道路が実現しようとしている公共的利益は,同法上の法制度によってその実現が十分に担保されているといえ、民法がその実現に参画するべきかどうかを議論する必要性は乏しいことになろう。 このように見ると、建築基準法上の道路における公共的利益の実現につき民法がどのような意義を果たすべきかについては、建築基準法(をはじめとする公法)自体が道路の公共的利益を確保するための法制度をどの程度整備しているか、そして、その法制度が実際にどのように運用されているかによるものと考えられる。今後、以上の推測の妥当性についてさらに検証し、論文等を公表する予定である。
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