本研究課題「インサイダー取引とその法規制」は、(1)インサイダー取引を捉える試み(定義付けの試み)と(2)インサイダー取引の規制構造の探求(規制構造の探求)にある。 平成22年度における研究(計画)は、とりわけ(1)の定義付けの試みに多くの時間を割いた。具体的には、昨年度から収集している文献・資料をもとに、さらには初期のインサイダー取引の形態に注目するというスタンスに立って、わが国における議論を整理し、アメリカやEUにおける議論をも参照しながら、一定の示唆を得ることであった。わが国における議論については、証券取引法(現金融商品取引法)166条の制定過程における議論に注目し、そこではインサイダー取引の捕捉(摘発)に重点が置かれ、そもそもインサイダー取引がどのような取引であるかといった点には踏み込んで議論されてきたわけではないこと、さらにその点を考察するには「規制の根拠」からアプローチする必要性がある、といった示唆を得た。また、本年度における資料調査の過程でアメリカでは議会上院で1987年に2度にわたってインサイダー取引の定義をめぐる公聴会が開かれていたことを突き止め、そこでは一定の枠組みも示されていることが判明した。今後それをさらに詳細に分析することおよびEUの市場阻害指令の分析とも併せて本研究としての結論の提示に結び付ける。 また、(2)の規制構造の探求については、会社の従業員等によるインサイダー取引事件を素材に、金融商品取引法166条・167条といわゆる自主規制との関係の分析を行った。とりわけ実務の世界では自主規制の果たす役割が大きく、金融商品取引法の中における規制(規定)相互の関係だけでない分析アプローチを採っていることは従来にない意義が認められるのではないかと考えている。
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