本年度も引き続き、ヨーロッパにおける消費者法および契約法の動向に関する研究を行った。主だった研究は、以下の通りである。(1)ロシュフェルド教授(パリ第1大学)による講演「ヨーロッパ契約法の構築とフランス法における改正案への影響」を翻訳する機会を得た。この作業を通じて、ヨーロッパおよびフランスにおける最新情報を入手することができたのみならず、同教授のご好意により関係諸機関の担当者をご紹介いただき、出張時に有意義なインタビューおよび意見交換を行うことが可能となった。(2)11月に京都で行われたストッフェル=マンク教授(パリ第1大学)による講演「消費法の法典化」において通訳および講演に対するコメントを担当した。本講演は幸いにも関係者のあいだで高い関心を集め、参加者による活発な議論が展開された。(3)2012年3月にヨーロッパに出張し、消費者権利指令および共通売買法規則提案に関する情報収集およびインタビュー(欧州委員会司法部、パリ商工会議所、大学教授等)を行った。(4)共通参照枠(DCFR)の翻訳プロジェクトに参加し、翻訳を分担した。(5)消費者権利指令の共同翻訳作業を進めている。(6)フランス民事判例(2件)の研究を行った。 本年度は、EUが2011年10月採択・公表した消費者権利指令および共通売買法規則提案が最も重要な研究対象となった。これらの立法(提案)に象徴されるように、委員会が法調和に向けて矢継ぎ早に斬新なアプローチを採用している点が注目される。とりわけ、共通売買法において採用された「選択的道具optional instrument」は、今後、法調和の主たる手段になると言われている。共通売買法の行方は、債権法改正作業が進みつつある我が国にとって有用な道標となり得る。時宜を得た成果公表に向けて尽力する所存である。
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