不正競争防止法により営業秘密として保護されるためには、(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性の3つの要件を満たさなくてはならない。とりわけ注目すべき要件は「秘密管理性」であり、この点に関する企業の努力は大きな意味を持つ。具体的に、企業に望まれる営業秘密の管理水準はいかなるものであるべきかが問題となる。これまでの研究において、日本の裁判例を分析したところ、情報に接する者にとって秘密であることが認識可能であったか否かで判断する裁判例群があるほか(相対説)、近時、高度な絶対的な基準をとり、その一部を欠くだけで秘密管理性を否定する一連の裁判例(絶対説)がみられることが明らかになった。相対説、絶対説のいずれが妥当であろうか。この秘密管理性要件の問題については、日本ではまだ積極的な議論が行われていないため、本研究ではこの問題を考えるひとつの参考となる視座を提供しうる素材として、アメリカを中心とした諸外国の裁判例・学説の検討を行うものである。諸外国の営業秘密法制に関する先行業績は、いずれもアメリカ法を概観するものであり、各要件について詳細な検討をしたものはなかった。そこで、21年度は諸外国の制度について研究するにあたり、いわゆる教科書的な体系書から、学術論文に至るまで、原語で書かれた洋書を購入し、翻訳、検討する作業を行った。アメリカ法については、論文がLEXISなどオンラインデータベースで入手可能であるため、効率的に研究を進める上での工夫としては、通信環境の整ったパソコン及び記憶装置を購入した。また、外国のうちフランスについては、体系的法律百科事典であるJuris-ClasseurのCD-ROMを用いて調査研究するほか、日本国内に資料が少ないことから、直接渡航して資料収集した。
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