本研究では、昨今、急速に生成かつ普及しつつあるインターネット上の(三次元)仮想空間(メタバース)内において創作され、使用される多様な創作物についての法的保護のあり方について、その現状を調査研究すると共に、知的財産法理論の観点から法的保護の基礎を明確にした上で、今後の課題や方向性を明らかにすることを目的とした。とりわけ、1)仮想空間内で活動する個人を表象する存在である創作物を巡る法的取扱い、2)仮想空間内で創作されたデザインや商標等の創作物の法的位置付け、3)創作物の法的保護を巡って生じうる仮想空間運営者の法的責任、という3つの事項について重点的に研究・解明することを行った。国内及び欧米における文献を中心とした調査研究の結果、1)については、仮想空間内であっても特定の顧客吸引力を有する他人の特徴ある外見等を流用する行為については、いわゆるパブリシティ権の侵害を構成しうる余地が存することが明らかとなった、2)については、仮想空間内において他人のデザインや商標を利用する行為については、商標法及び不正競争防止法による法的保護の余地はあるものの、現行法の下で対応しうる範囲については限界が存すること、またデザイン保護については現行の意匠法では対応し得ないことが明らかとなり、今後の課題がある程度明らかとなった、3)については、現在の判例法理・学説の下では、必ずしも明確な結論が導出される状況にはないものの、至近の最高裁判決を下に考えると、仮想空間運営者の法的責任が生じる余地は少なくない(とりわけ利用者による著作権侵害が生じることを前提とした場合)ものと考えられる。 以上の結論を踏まえ、さらなる理論的課題への対応及び検討を進める必要性が存するものと考えられ、欧米をはじめとした諸外国における議論状況についても注目する必要がある。
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