本研究は、本来は物権的な「形式権」として構築されてきた知的財産権が、さまざまな点で不法行為的な「実質権」へと変容を見せている現状(知的財産法制の「実質化」傾向)を分析し、主に「法と経済学」の手法を用いつつ、知的財産法制の望ましい姿を探求するものであった。 計3年間にわたる本研究のうち、最終年にあたる平成23年度は、昨年度までに実施した基礎研究、すなわち、物権的法制(property rules)と不法行為的法制(liability rules)の相違や差止制度の機能に関する研究、および法の定め方に関する個別規定(rule)と一般規定(standard)の比較に関する研究によって得られた知見を、現実の知的財産法に含まれる諸制度に適用した。 具体的には、主に「法と経済学」ならびに民法(物権法、不法行為法、特に差止制度に関するもの)に関する国内外の基本文献を収集すると共に、資料の分析・整理を行った。また国内外に出張し、文献資料からは困難な意見交換や各国の状況把握に努めたほか、関連する学会・研究会に出席することを通じて広く情報収集に努めた。 その最大の成果として、編著"The Future of the Patent System"が、英国の出版社から本年秋に出版される予定であり、またこのほか、邦語論文を多数執筆した。これら研究成果の意義は、一見すると何ら関連がないように見える知的財産法分野における喫緊の諸課題を、「実質化」という一貫した視点から横断的・包括的に検討対象とし、それら諸課題の整合的な解決策(解釈論・立法論)を提言したことにある。
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