本研究は、シンガポールを中心とするアジア各国における移民政策の展開を比較分析し、評価することを試みている。本研究の3年目は最終年度であり、これまでに収集した資料や予備的分析の結果をまとめながらの研究成果報告を主な活動とした。それとともに、今後とも研究を拡充、進展させていくための現地の専門家と打ち合わせや、研究へのフィードバックをおこなった。具体的には、アジア研究学会において日本およびアジア諸国の移民政策の形成メカニズムを論じ、当該テーマに関する意見交換に努めた。同様に、国際会議「アジアにおける移住労働に関するラウンドテーブル」(アジア開発銀行研究所/OECD共催)において、シンガポールを含むアジア各国の移民政策がもたらす越境労働への影響について報告をおこなった。後者の報告では、主に、2008年に発生した経済危機以降における国際人口移動の動向が各国の移民政策や経済社会的文脈によりいかに規定されているかを明らかにした。上に述べた学会および国際会議における研究報告と専門家からのフィードバックも参考にしながら、本年度は、以下の研究成果をまとめた。「移住労働と世界的経済危機」明石純一編『移住労働と世界的経済危機』(明石書店、2011年9月)、および、「現代日本における入国管理政策の課題と展望」吉原和男編『現代における人の国際移動』(慶応義塾出版会、2012年4月刊行予定)。上述の通り、現地での研究打ち合わせ、論文発表、学会等の参加を通じて、各国研究者から有意義なコメントを多数得ることで、本研究事業にて焦点を当てたシンガポールの事例のみならず、移民政策の国際比較研究を深めていくための分析軸の整理、検討をおこなうことができた。また、当初から予定していた日本の事例との比較分析を試みた成果を発表するなど、今後の研究調査へと繋がる発展的作業となった。
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