研究概要 |
本研究では特定地域・診療科における医師不足・医師偏在を引き起こしたといわれる新医師臨床研修制度について,コンテクストレベルと社会全体レベルの2段階にわたる多元的評価を実施した.その結果,新医師臨床研修制度は,現場レベルでは総合的診療能力の向上と研修医の待遇向上という2つの目標を一定程度達成し,また現場のステークホルダーはそれぞれの価値に基づいてそれらプログラム目標を是認していることが明らかとなった.社会レベルでは,「平等」な医療システムを指向したことについては全面的に評価しうるものであったが,医師の私的性格を尊重した結果医師の偏在という問題を招き,結果として「平等性」を損なうこととなったと分析される.新制度に包含されたマッチングシステムの導入が医師の私的性格拡大を意味すると同時に,医師の偏在を引き起こすトリガーとなっていたことから,新制度については現場レベルでの目標設定は適切であったが,社会的影響も含めた政策設計には問題があったと評価せざるを得ない.また,その解決策として打ち出された政策も根本的価値の観点や長期的影響の可能性から,いずれも十分なものとは評価し得ない.現在の医師偏在問題を解決するためには,医師の公的性格を重視することで平等な医療システムを実現しようとする政策が望ましい.
|