今年度は主に選挙制度改革以降の選挙について、自民党を中心に分析を行った。以下、論文と図書の知見を要約する。元来、自民党は、衆院中選挙区制の農村部を中心として候補者間競争により地域割拠型の集票競争を行うことで多くの得票を得ており、また定数不均衡によって大きな議席アドバンテージを得ていたが、小選挙区制の導入によりこの選挙上のアドバンテージを失った。自民党が支持基盤としている農村の産業は高齢化の進展等もあり衰退しており、後援会の基盤の弱化もみられた。ただし、選挙制度改革直後は野党に大きな政党が存在せず、00年以降は都市部で強い公明党との協力、03年以降は小泉政権による構造改革路線により自民党は政権を維持することに成功していたため、この農村偏重、地元割拠型の政党組織が時代遅れとなっていたことは00年代後半になるまではっきりしなかった。これが明確化したのは安倍政権に入り小泉以前の自民党の路線が台頭し始めてからであり、小泉構造改革路線を否定する勢力が目立つにつれ、小泉政権時に自民党を支持した有権者層を手放し、2007年参院選では野党協力の前に敗れる結果となった。しかし、選挙の敗因分析に失敗した自民党は地域の支持基盤への予算配分を伴ういわゆるバラマキ型の政策を目立たせることになり、福田政権、麻生政権と世論の支持を失い続け、2009年総選挙で民主党に政権の座を明け渡すこととなった。この研究では、従来指摘されていた小泉構造改革による自民党の地方の支持基盤の弱化という仮説を棄却し、もともと弱化していた支持基盤が小泉路線等によってしばらく隠されており、小泉後これが顕在化したということを指摘した点が特に意義深いと思われる。
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