本研究の初年度にあたる今年は、ジンメルの一次文献と二次文献を収集・整理するとともに、彼の主要著作を検討することに力を注いだ。また、ジンメルが英語で発表した諸論文(Gesamtausgabe 18)や書簡(Gesamtausgabe 23)などにも取り組んだ。 2月のドイツ出張では、マールブルク大学、ベルリン大学の図書館で資料を収集すると同時に、ジンメル全集の責任編集者であるラムシュテット(Otthein Rammstedt)をビーレフェルト大学に訪問し、聞き取り調査を行った。そこで、ジンメルの「ヨーロッパの理念Die Idee Europa」をテーマとしたシンポジウムの資料を手配してもらうとともに、ジンメルの「争い」論文が「社会分化」論文との関連で検討されるべきであるとの指摘を受け、また彼の日本や東アジアに関する理解やクルト・ジンガーとの関係について、いくつかのヒントをいただいた。 本研究の成果の一端は、「脱官僚と決定の負荷--政治的ロマン主義をめぐる考察」(『現代思想』2010年2月号)と「マックス・ウェーバーと官僚制をめぐる情念--sine ira et studioと「不毛な興奮」」(『思想』2010年5月号予定)というふたつの論文の形で発表した。前者においては、今日の「脱官僚」をめぐる議論の問題を、生と形式の弁証法の崩壊というジンメルの時代診断(「文化諸形式の変遷」)の視座から論じた。後者では、ジンメルの「争いによる社会統合」に言及し、またウェーバーがジンメルから借用して『職業としての政治』で用いている「不毛な興奮」という表現に注目し、その意味について検討した。
|