この研究の課題は、ゲオルク・ジンメルの社会理論を手掛かりにして、社会統合のあり方について考察することである。 今年度は、ベルリンの複数の図書館にて調査をし、ケンブリッジ大学のシンポジウムの際に、A・ハリントン氏(エアフルト大学マックス・ウェーバー研究所講師)と、ジンメルのヨーロッパ論などをめぐって意見交換をおこなった。またW・ゲプハルト(ボン大学)からは、彼の研究プロジェクト「文化としての法Recht als Kultur」の視角から助言を受けた。 そのうえで、このテーマに関しては、二つの論文を執筆した。 第一は、「マックス・ウェーバーと官僚制をめぐる情念-sine ira et studioと「不毛な興奮」」(『思想』)である。この論文では、ジンメルのことば「不毛な興奮」に注目しながら、また彼がウェーバー的な「鉄の檻」のような近代イメージをもっていなかったことを評価しながら、「リキッド・モダニティ」(バウマン)時代における彼の社会理論(生と形式)の意義を指摘した。なお、この論文の内容については、ケンブリッジ大学でのウェーバー・シンポジウムにおいても報告した(Reflections on Passion in Max Weber's Works on Bureaucracy:"Sine Ira et Studio" and "Sterile Excitation")。 第二は、「参加と動員」(齋藤純一・田村哲樹編『アクセスデモクラシー』近刊予定)である。この論文では、社会的包摂や「新しい公共」など、近年の参加理論について検討し、そこにおける参加の平板さを問題にしたうえで、ジンメルのエッセー「余所者」を手引きにしながら、社会へのコミットメントのあり方について考察した。
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